性感染症(STD)
性交渉(オーラルセックスやアナルセックス含む)によって感染する病気を総称して性感染症といいます。細菌、ウィルス、原虫などが主な原因となります。特に女性は性感染症にかかっても症状が現れにくいとういう特徴があり、気づかない間に感染が進行していることも少なくありません。性感染症を気付かずに放置すると、不妊の原因になってしまうものもあります。症状のない方でも性感染症の可能性があるかもという方は、ぜひ一度検査しておくことをおすすめします。
また、性感染症で大切なことはパートナーと共に検査・治療が不可欠ということです。一人が感染していたら、パートナーも感染していると考え、お互いの治療が必要になります。パートナーも含めてしっかり治療を受け完治させないと繰り返し感染してしまうことも珍しくありません(ピンポン感染)。お互いに異常がないことがはっきりするまでは、性行為は避けましょう。
*性感染症について気になることがある時は、一人で悩まずご相談ください。
目次
1.クラミジア感染症
クラミジアはクラミジア・トラコマティスという細菌に感染することで起こります。
現在、最も発生頻度が高い性感染症で、若い女性を中心に感染率が高いといった特徴があります。最近ではオーラルセックスによる咽頭(のど)感染も多いと言われています。
また、クラミジアに感染している人の10%は淋菌にも感染*¹していると言われているため、同時に検査を受けることが推奨されています。
潜伏期
1~3週間
症状
無症状のことも少なくありません。
- 性器―おりもの増加や性状の変化、不正性器出血、下腹部痛、性交痛
- 咽頭―のどの腫れや痛み、発熱など風邪に似た症状
子宮の入り口で子宮頸管炎を起こし、さらに感染が子宮や卵管、腹腔内へ広がり(骨盤内炎症性疾患:PID)、さらに進行すると肝臓周辺まで広がることがあります。
卵管が狭くなったり骨盤の中で癒着がおこり、将来の不妊症や子宮外妊娠の原因になることもあります。また、妊娠中に感染していると流産や早産の原因となったり、お産の時に赤ちゃんが産道を経由して感染し結膜炎や肺炎になることもあります。
検査
性器:膣内のおりものを綿棒でぬぐって検査します。
のど:うがい液で検査します。
治療
抗生剤を内服します。耐性菌(薬が効かないタイプの菌)が出現することもあるため、治療開始から3週間後以降に再検査(効果判定)を必ず行います。その際に陰性が確認できたら治療完了です。
2.淋菌
淋菌という細菌に感染することで起こります。クラミジア感染症と同様に女性の場合はとても症状が分かりにくいという特徴があります。最近ではオーラルセックスによる咽頭(のど)感染も多いと言われています。
また、淋菌に感染している人の20~30%はクラミジアにも感染*²していると言われているため、同時に検査を受けることが推奨されています。
潜伏期間
2~7日
症状
無症状のことも少なくありません。
- 性器―おりもの増加や性状変化、不正性器出血、下腹部痛、性交痛
- 咽頭―のどの腫れや痛み、発熱など風邪に似た症状
クラミジア感染症と同様に感染に気付かずに放置してしまうと、炎症が広範囲に広がったり(骨盤内炎症性疾患:PID)、将来の不妊症の原因になることがあります。妊娠中に感染していると流産や早産の原因になったり、お産の時に赤ちゃんが産道を経由して感染し結膜炎になることもあります。
検査
性器:膣内のおりものを綿棒でぬぐって検査します。
のど:うがい液で検査します。
治療
抗生物質の点滴(通常は1回)を行います。耐性菌(薬が効かないタイプの菌)が出現することもあるため、1週間後以降に再検査(効果判定)を必ず行います。その際に陰性が確認できたら治療完了です。
3.膣トリコモナス症
トリコモナスという原虫に感染することにより起こります。ほとんどは性行為で感染しますが、便器、浴場、タオルなどから感染することもあります。
潜伏期間
平均10日前後 (5日~1か月と個人差があります)
症状
無症状のことも少なくありません。
- おりものの増加(泡状の悪臭)、外陰部の激しい痒み
感染に気付かず放置すると炎症が進み、将来の不妊症や流産・早産の原因にもなることもあります。
検査
膣内のおりものを綿棒でぬぐって検査します。
治療
抗原虫薬の内服又は膣剤を使用します。
薬内服終了後、生理が終わったら再検査(効果判定)を必ず行います。
4.性器ヘルペス
単純ヘルペスウィルス(HSV)というウィルスに感染することによって起こります。
一度感染すると症状が改善しても、神経細胞にウィルスが潜み、ストレスや過労など身体の抵抗力が落ちた時に再発することがあります。
HSVは、1型と2型があり、かつては性器の感染は1型、口の周りは2型が多かったですが、オーラルセックスにより性器と口唇ヘルペスの違いがなくなり、性器は1型2型ともに感染する可能性があります。
初めての感染の時は症状が強く、また1型は2型に比べ症状が強いのが特徴です。
潜伏期間
2~10日
症状
- 外陰部や膣を中心に痛み、潰瘍(ただれ)、水疱
初めての感染は症状がとても強く、発熱などの全身症状がみられることもあります。さらに重い場合は、痛みにより排尿や歩くことも出来なくなり入院が必要となることもあります。
再発の場合は、通常初感染に比べると症状は軽いと言われています。
検査
視診で診断します。
治療
抗ウィルス薬を内服します。重度の時は点滴が必要な場合もあります。
再発を繰り返す(6回/年以上)場合は、1日1回少量の抗ウィルス薬を内服することによって再発を抑えることができ、1年間保険診療で処方が可能です。
5.尖圭コンジローマ
子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウィルス)の一種によるウィルスに感染することで起こります。HPVは100種類以上の型があり、6型・11型HPVが尖圭コンジローマを引き起こします。性行為によってできた表面や粘膜の小さな傷から感染すると言われています。また一度治癒しても再発率が高いことも特徴の一つです。
潜伏期間
3週間から8ヵ月程度
症状
性器周囲、肛門周囲に顆粒状、鶏のトサカ、カリフラワーに似たイボ状の突起物を形成。かゆみや違和感で気付くこともあります。
検査
視診で診断します。
治療
塗り薬で治療します。
(他にもレーザー蒸散、凍結療法、電気焼灼などの外科的切除があります。)
6.梅毒
梅毒トレポネーマという細菌に感染することによって起こります。最近増加傾向にあり、自覚症状が少なく潜伏期間が長いため気付かないうちに多くの人に感染させてしまう可能性があります。また感染したまま妊娠すると、胎盤を通して赤ちゃんに感染し、先天梅毒の原因となり早産や死産、奇形が現れることがあります。
かつては命を落とす性病とされていましたが、現在では治療薬の普及により治癒する病気となりました。
潜伏期間
3~6週間
症状
梅毒の症状は、時間の経過と共に症状が全身に進行していきます。
通常は、第1、 2期の段階までに、梅毒の発見・治療が行われます。
第1期 (感染後3週~)
感染部位(性器や口、肛門)に痛みのない赤く硬いしこりができ、それが潰瘍になります。足の付け根のリンパ節が腫れることもあります。
*数週間で症状が消失しますが治ったわけではありません。
第2期 (感染後3か月~)
感染力が最も強い時期。全身にバラ疹と呼ばれるピンク色の発疹が現れます。
*数週間で再び症状が消失しますが治ったわけではありません。
第3期 (3年~)
全身で炎症が進行、皮膚や骨、筋肉などにゴムのような腫瘍(ゴム種)が現れます。
第4期 (10年~)
末期症状が現れます。全身の臓器や神経が侵され、死に至る場合もあります。
検査
血液検査(感染機会から4週間以上経過しての検査をおすすめしています)
治療
抗生剤の内服をします。
治療開始後は定期的な採血により完治したか確認し、治療終了となります。
7.B型肝炎/ C型肝炎
B型肝炎ウィルス(HBV)やC型肝炎ウィルス(HCV)に感染することにより起こる肝臓の病気です。ほとんどの人が無症状なため、感染に気付かないことも多くあります。
一過性感染は一時的な感染で終わりますが、持続感染はほとんどが生涯にわたり感染が持続します。
B型肝炎:分娩時の母子感染では持続感染する可能性がありますが、成人になってから初感染した場合、多くは自然治癒します。一部が急性肝炎(肝細胞に炎症が起き一時的に症状が悪化)を発症します。
C型肝炎:感染した時期に関係なく70%が持続感染*³となります。急性肝炎の発症は少ないですが、自覚症状がなく慢性化するケースが多く、将来肝硬変から肝臓がんに移行する可能性が高い病気です。
潜伏期間
2~6週間
検査
血液検査(感染機会から3カ月以上経過してからの検査をおすすめします)
治療
適切な医療機関へご紹介いたします。
8.HIV
ヒト免疫不全ウィルスというウィルスに感染することによって起こります。
エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因となるのがHIV感染症です。HIVは身体を守る免疫細胞に感染するため、長い時間をかけて徐々に免疫細胞を破壊していきます。
早期に治療を始めないと数年~10年ほどで、健康な人であれば問題のないような菌やウィルスによってあらゆる病気を発症します。「死」につながるイメージもあった病気ですが、現在は適切な治療により、エイズ発症を抑えることはできます。
潜伏期間
2~4週間
症状
初期感染(インフルエンザに似た症状、かゆみや発疹、息切れなどの症状が出ます)→無症候期(数年~10年)→エイズ発症
初期感染の症状は自然治癒することがほとんどです。無症状のこともあります。
自覚症状がない時期(無症候期)が数年~10年程度ありますが、体内では病気が徐々に進行しています。免疫機能が低下してくると、健康な人であればかからないような病気を発症します。
検査
血液検査(感染の機会から3カ月以上経過してからの検査をおすすめしています)
治療
適切な医療機関へご紹介いたします。
【参考】
*1産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020,p1
*2医療情報科学研究所「病気が見えるvol.9婦人科・乳腺外科」,メディックメディア,2018,p88
*3公益財団法人ウィルス肝炎研究財団http://vhfj.or.jp